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値上げしないのに最高益。サイゼリヤに学ぶ「働き方改革」で利益を守る経営

原材料費も、人件費も上がり続けています。多くの企業が「値上げやむなし」と価格改定に動くなか、価格を守りながら利益を伸ばしている企業があります。

なぜ、それが可能なのでしょうか。答えは「もっと高く売る」ことではなく、「働き方そのものを変える」ことにありました。この記事では、価格を守りながら最高益を見込む企業の事例を手がかりに、自社にも応用できる利益体質のつくり方を、経営者の目線で分解していきます。

値上げの波の中で、価格を守りながら最高益を出す企業がある

いま、多くの企業が同じコスト環境に直面しています。総務省の消費者物価指数を見ると、外食の価格は2025年を通じて前年比4%台の上昇が続きました。人件費も同様です。2025年度の最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、前年度から66円(6.3%)引き上げられました。過去最高の引き上げ幅で、全都道府県が初めて1,000円を超えています。

コストが上がれば、価格に転嫁するのが自然な流れです。実際、外食大手を対象にした東京商工リサーチの調査(2023年4月時点)では、調査対象122社のうち7割が値上げを実施または発表していました。

こうした環境のなかで、あえて価格を守りながら業績を伸ばす企業として注目されるのが、洋食チェーンのサイゼリヤです。同社の公表資料によると、2025年8月期(前期)の親会社株主に帰属する当期純利益は111億円で、前の期から37.0%増えました。続く2026年8月期についても、期初は当期純利益124億円を見込んでいましたが、その後、米などの食材費高騰を受けて2026年4月に118億円へ下方修正しています。それでも前の期を上回る水準で、3期連続の最高益を見込んでいます。

象徴的なのが看板メニューです。人気のミラノ風ドリアは、現在も税込300円で提供を続けています。コストが上がるなかでも値ごろ感を守り、それでいて利益を積み上げる——この両立こそが、経営者にとって学びの多いポイントです。

鍵は「売り方」ではなく「働き方」にある

価格を守りながら利益を伸ばす。その鍵は、派手なマーケティングや値付けの工夫ではありません。調達から製造、物流、店舗運営までの一連の流れを、いかに無駄なく設計するか。つまり「働き方(オペレーションの設計)」にあります。

調達から店舗まで、一気通貫で無駄な工程・時間・在庫を削る

利益を生む働き方の第一歩は、業務全体を一本の流れとして見渡すことです。原材料を仕入れてから、加工し、運び、店頭で提供するまで。この一連の工程のどこに無駄な手間・時間・在庫が眠っているかを洗い出し、上流から下流まで一気通貫で削っていきます。

サイゼリヤの場合、セントラルキッチン(集中調理施設)で食材の下ごしらえを集約していることが知られています。カット野菜やソースの製造といった前処理を工場でまとめて行い、各店舗のキッチンでの作業を最小限に抑える。工程を一箇所に集めることで、規格を揃え、品質を安定させ、店舗ごとのばらつきや手戻りを減らす狙いです。

人が担う「価値領域」と、仕組みに任せる「反復作業」を切り分ける

もう一つの要は、仕事を「人にしかできない価値ある領域」と「仕組みに任せられる反復作業」に切り分けることです。

サイゼリヤでは、注文はテーブルのQRコードから客が自分で行うセルフオーダー、会計はセルフレジを導入し、これらを2024年8月期中に全店へ配置し終えたと公表しています。また、報道によれば、店舗では包丁やガスレンジをほとんど使わない設計とし、加熱や仕上げの工程に絞り込んでいるとされます。厨房の動線もできるだけ無駄な動きが出ないよう最適化されていると言われます。

こうして反復作業を仕組みに預けることで、店舗のスタッフは加熱・盛り付け・最終仕上げといった、味と満足度を左右する付加価値の高い工程に集中できます。同じ人員でも、提供の速さと品質の安定を高い水準で保てるのです。

省力化は「仕事を減らすこと」ではない——時間を付加価値に変える

ここで、多くの経営者が誤解しがちな点を押さえておきたいと思います。省力化や働き方改革の目的は、「仕事量を減らすこと」ではありません。目的は、時間を生み出し、その時間を付加価値に振り向けることにあります。

単に人手や作業を減らすだけなら、それはコストカットに過ぎません。生まれた余力を価値創造に再配分して初めて、省力化は競争力に変わります。

生まれた時間を、最終チェック・接客・トラブルの未然防止へ再配分する

たとえば、省力化で生まれた30分を、提供前の最終チェックや、ひと言の接客、クレームを未然に防ぐための目配りに充てる。自動化で削れた事務時間を、提案資料の精度向上や仮説の検証に回す。

これは飲食業に限った話ではありません。書類作成のような専門的な業務でも、工程を分解すれば時間短縮の余地は必ず見つかります。ある企業では、定型的な資料づくりを標準化・仕組み化したことで、担当者が本来注力すべき中身の検討に時間を割けるようになった、という例もあります。「削る」こと自体が目的ではなく、「削って空いた時間を何に使うか」を設計することが本質です。

CS(顧客満足)とES(従業員満足)の両輪が回る仕組み

省力化がコストカットで終わらず、価値創造につながると、従業員の負荷が軽くなりながら、仕事に誇りが生まれます。その結果、顧客満足(CS)と従業員満足(ES)が両輪で回り始めます。

この考え方は、経営学でも古くから知られています。1994年にハーバード・ビジネス・レビュー誌で提唱された「サービス・プロフィット・チェーン」という枠組みは、従業員満足の向上がサービス品質を高め、それが顧客満足とリピート・口コミを生み、利益となって再び従業員へ投資される——という好循環を描いています。省力化で生まれた余力を、現場教育や品質・安全の徹底、看板商品の継続的な改善に振り向ける。この矢印が設計されて初めて、価格を据え置いたまま競争力を高める循環が動き出します。

自社に応用する4ステップ改善プロセス

では、こうした利益体質を自社でつくるには、何から始めればよいのでしょうか。業種を問わず使える改善プロセスを、4つのステップで整理します。

①現状調査:フロント/ミドル/アフターの業務を棚卸しする

まず、自社の業務を「フロント(顧客接点)」「ミドル(社内処理)」「アフター(納品後の対応)」に分けて棚卸しします。何をどう変えれば、顧客満足と従業員満足を上げられるのか。現状を可視化することが、すべての出発点です。

②要因分析:「なぜ時間がかかるか」を工程ごとに分解する

次に、現状を引き起こしている根本の要因を工程ごとに分解します。同じ業務でも、短時間でこなせる担当者と、時間がかかる担当者がいます。その差はどこにあるのか。「何に時間がかかっているのか」を細かく分けて見ていくと、改善の糸口が見えてきます。

③根本的対策:標準化・仕組み化で再現性を高める

要因が見えたら、それをどう解決するかを考えます。手順のシナリオを先に固めてから作業に入る、標準化・マニュアル化を進める、AIを活用する、チェックや納品の体制をシステム化する——。属人的なやり方を、誰がやっても一定の品質が出る仕組みへ置き換えていくのがポイントです。

④具体的戦略:いつ・誰が・どこまでやるかを工程別に明確化する

最後に、対策を「いつ・誰が・どうやって」実行するかを、工程別に落とし込みます。行動プランのレベルまで具体化して初めて、改善は現場で動き出します。そして、うまくいった手応えが「現場の勝ち体験」として積み重なるよう、定期的なミーティングで現場の声を反映していくことが定着の鍵になります。

なお、こうした省力化・生産性向上の取り組みには、公的な支援制度を活用できる場合があります。たとえば中小企業向けの「中小企業省力化投資補助金」は、2026年7月1日に第7回の公募受付が始まっています。ほかにも、デジタル化やAI導入を支援する補助金、賃上げと設備投資をセットで支援する業務改善助成金などがあります。ただし、これらは要件を満たしても採択が保証されるものではなく、補助額も投資内容や企業規模によって異なります。制度の内容や公募時期は変わるため、活用を検討する際は各事務局の公式サイトで最新情報をご確認ください。

まとめ:省力化は手段、CS・ESの向上が目的

コストが上がり続ける時代に、価格を守りながら利益を伸ばす。その本質は、「売り方」ではなく「働き方」の設計にありました。

大切なのは、省力化そのものが目的ではないということです。省いた力を価値に変え、顧客満足と従業員満足を高めていく。この原則を軸に据えれば、業種を問わず、自社の業務も工程分解によって利益体質へと変えていけます。

「省力化→余白→価値創造」という矢印を、自社のどの業務で描けるか。まずは一つの工程を棚卸しするところから始めてみてはいかがでしょうか。自社に合った省力化・生産性向上の進め方や、活用できる公的支援について相談したい経営者の皆さまは、お気軽にお問い合わせください。