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「マイナスの貯金」繰越欠損金を大型投資で活かす ― 通称ハイパー償却と法人税・事業承継の勘所

「マイナスの貯金」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。会社が赤字を出すと、その赤字は「繰越欠損金」として翌期以降に繰り越し、将来の黒字(利益)と相殺して法人税を抑えられます。この仕組みを指して、赤字を“将来のための貯金”にたとえる言い方です。

ただし、最初に大切なことをお伝えします。赤字そのものは、事業にとって望ましいものではありません。繰越欠損金は「結果として使える制度」であって、節税のためにわざと赤字(投資)を出すのは本末転倒です。本記事でご紹介するのは、あくまで事業成長のために大型の投資を行う企業が、投資を決める前の計画段階で、税務と事業承継まで含めて設計するという話です。この順序を間違えなければ、同じ投資でも効き方が大きく変わります。

「マイナスの貯金」とは ― 繰越欠損金の基本

繰越欠損金とは、ある事業年度に生じた税務上の赤字(欠損金)を、翌期以降に繰り越せる仕組みのことです。繰り越した欠損金は、将来利益が出た年度の所得と相殺でき、その分だけ法人税の負担を抑えられます。

繰越期間は、原則として最長10年です(平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金の場合)。適用には、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることなどの条件があります(国税庁タックスアンサー No.5762)。

繰り返しになりますが、この制度は「赤字を推奨するもの」ではありません。黒字化と成長が前提にあり、欠損金は事業の結果として生じるものです。「将来の利益と相殺できる」という点だけを取り出して、赤字づくりを目的化しないことが大前提です。

2026年に施行された大型投資向けの新税制(通称「ハイパー償却」)

令和8年度税制改正で創設された制度のひとつに、「特定生産性向上設備等投資促進税制」があります。経済産業省は「大胆な投資促進税制」とも呼んでおり、民間では一部で「ハイパー償却」という俗称も使われています。根拠は租税特別措置法第42条の12の7で、対象設備の確認は産業競争力強化法に基づきます。この制度は2026年7月31日に施行され、同日から経済産業大臣の確認申請の受付が始まりました。

従来、建物は数十年かけて少しずつ減価償却するのが原則でした。これに対しこの制度では、機械装置やソフトウェアに加え、建物も含めて取得した年に即時償却(取得価額まで一度に損金算入)することが選べます。税額控除を選ぶこともでき、その割合は機械装置・器具備品・ソフトウェアで7%、建物・建物附属設備・構築物で4%、控除の上限は調整前法人税額の20%とされています。即時償却と税額控除は、資産ごとに選択できます(国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」)。

ひとつ注意したいのは、即時償却は費用計上のタイミングを前倒しするものだという点です。早く損金にする分、後の年度の償却費は減ります。つまり支払う税金の総額そのものが減るわけではなく、性格としては「課税の繰延べ」です。資金繰りや後述の事業承継のタイミングには効きますが、「総額で必ず得をする」という制度ではないことを押さえておきましょう。

対象となる投資の規模と要件

この制度は、規模の大きい戦略的な投資を対象にしています。主な要件は次のとおりです。

  • 投資下限額:対象設備の取得価額の合計で、中小企業者等は5億円以上、大企業等は35億円以上。
  • 投資利益率(ROI):計画期間を通じて年平均15%以上の見込みであること。
  • 経済産業大臣の確認:設備を取得する前に、確認申請書に公認会計士または税理士の事前確認書を添えて申請し、確認を受ける必要があります。

投資下限が中小企業者等でも5億円以上と大きいことからわかるとおり、これは大規模・戦略的な投資を行う一部の企業向けの制度です。多くの中小企業がまず検討するのは、より身近な中小企業向けの投資減税(中小企業経営強化税制など)のほうです。こちらは令和8年度税制改正の投資減税を解説した別記事で整理していますので、通常規模の設備投資をお考えの場合はあわせてご覧ください。

大型投資と繰越欠損金を組み合わせるとどう効くか

大型投資で建物まで含めて一度に損金化すると、その事業年度は大きな赤字(繰越欠損金)が生じることがあります。この「マイナスの貯金」を、その後の利益と計画的に相殺していく、というのが基本的な考え方です。

法人税負担を長期にわたり平準化する

一度の大型投資で生じた繰越欠損金は、最長10年にわたって繰り越せます。毎年の利益と少しずつ相殺していけば、長期間にわたって法人税の負担を抑え、利益の波をならすことができます。

ここで、会社の規模によって効き方が変わる点に注意が必要です。繰越欠損金を所得と相殺できる限度額は、資本金1億円以下の「中小法人等」であれば繰越控除前の所得の全額までです。一方、それ以外の法人は所得の50%が上限になります。ただし資本金1億円以下であっても、大企業の100%子会社など一定の法人は「中小法人等」から除かれ、全額控除の対象にならない場合があります(国税庁タックスアンサー No.5762)。自社がどちらに当たるかは、資本関係も含めて確認しておきましょう。

自社株評価の引き下げと事業承継・相続

大型投資で多額の損金を計上した事業年度は、その期の所得(利益)が大きく圧縮されます。非上場株式の評価方法のひとつである「類似業種比準方式」は、配当・利益・純資産といった要素をもとに株価を算定するため、利益が下がった年度は、自社株の評価額が下がる可能性があります。評価が低いタイミングで後継者へ株式を移転できれば、贈与税・相続税の負担を抑えやすくなる、というのが一般的に語られるロジックです。

ただし、この考え方には必ず次の注意点がセットになります。

  • 評価減は一時的です。翌期以降に利益が回復すれば、株価の評価も戻っていきます。狙ったタイミングと手続きが合って初めて効く話です。
  • 新築した建物では、評価減が効きにくい場合があります。純資産価額方式では、課税時期前3年以内に取得・新築した家屋などは、帳簿価額ではなく通常の取引価額で評価するという取扱いがあります(財産評価基本通達185括弧書)。即時償却で帳簿上の価額を下げても、評価額が取得価額に近いまま計算されることがあるのです。
  • 税負担の軽減だけを目的とした取引には、否認のリスクがあります。最高裁令和4年4月19日判決は、通達どおりの評価を用いた相続対策について、特別の事情があるとして例外的な取扱い(財産評価基本通達の総則6項)を認めました。不動産の事案であり設備投資にそのまま当てはまるものではありませんが、「評価を下げること自体を目的にした取引」には慎重であるべきだという一般的な注意の根拠になります。

したがって順序が大切です。株価を下げるために投資するのではなく、事業上の必要性に基づいて投資した結果として、評価に影響しうる。この順番であれば、経済合理性(投資計画とROI)にも裏打ちされます。実際の評価や移転のタイミングは、必ず顧問税理士など専門家と個別にご確認ください。

活用の前提は「節税ありき」ではなく「事業成長ありき」

ここまで税務上のメリットを見てきましたが、改めて強調したいことがあります。節税は投資の“結果”であって、目的ではありません。

そもそもこの制度は、年平均15%以上という高い投資利益率(ROI)の見込みを要件にしています。これは制度自体が「きちんと稼ぐ投資」を前提にしている、ということにほかなりません。赤字を意図的につくって税金を減らす、といった使い方を想定した制度ではないのです。

まず「この投資は事業をどう伸ばすのか」という本来の目的があり、その投資を実行する過程で税務や承継のメリットが生じる。この順序を守ることが、制度を正しく、かつ安全に活かす前提になります。

実務上の注意点 ―「計画」がすべて

この制度を活かせるかどうかは、投資を決める前の計画段階で決まります。実務の流れとして、特に次の点を押さえておきましょう。

  • 確認は設備取得の前に:経済産業大臣の確認を受ける前に設備を取得すると、対象外となるおそれがあります。確認書の発行には目安として30日〜1か月程度かかるとされるため、期限ぎりぎりの申請は避け、早めに動くことが大切です。
  • 他の税制との併用制限:確認を受けた投資計画の期間中は、地域未来投資促進税制、中小企業経営強化税制(ただし繰越税額控除は適用可)、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の適用を受けられません。なお、ここで対象になる税額控除の繰越し(産業競争力強化法の認定を受けた法人で最大3年間)は、前述の繰越欠損金(最長10年)とは別の制度ですので、混同しないよう注意してください。
  • 適用期限:経済産業大臣の確認は、令和11年(2029年)3月31日までに受ける必要があります。取得と事業供用は、確認を受けてから5年以内です。
  • 最新要件の確認:ROIの具体的な計算方法や細かな要件は、制度の運用に応じて整理されています。適用を検討する際は、国税庁・経済産業省・中小企業庁の最新の公表情報で必ずご確認ください。

まとめ ― 大型投資は計画段階で税務と承継まで設計する

最後に要点を整理します。

  • 繰越欠損金(最長10年)は、将来の利益と相殺して法人税を抑えられる「マイナスの貯金」。ただし赤字を目的化するものではありません。
  • 令和8年度税制改正で創設され2026年7月31日に施行された「特定生産性向上設備等投資促進税制」(通称ハイパー償却)では、建物も含めて即時償却や税額控除が選べます。即時償却は課税の繰延べであり、投資下限や経済産業大臣の事前確認など要件は小さくありません。
  • 多額の損金計上はその期の自社株評価に影響しうるため、事業承継・相続対策と結びつく可能性があります。ただし評価減は一時的で、新築建物では効きにくい場合もあり、税負担軽減だけを目的とした取引には否認リスクがあります。
  • 共通する勘所は「計画がすべて」。投資を決める前に、税務と承継まで含めて設計することが重要です。

私たちシャイン総研は、補助金・公的支援や税制優遇の活用を長年にわたり支援してきました。大型の設備投資は、買う前の計画段階で税務や事業承継まで一緒に設計できるかどうかで、効き方が大きく変わります。設備投資をご検討中の経営者の方は、投資の計画段階で、ぜひお気軽にご相談ください。

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  • 題目:大胆な投資促進税制の解説と活用事例
  • 日時:2026年10月20日(火)13:00〜14:30(受付 12:30〜)
  • 会場:東宝日比谷ビル17F セミナールーム(東京都千代田区有楽町1-2-2)
  • 内容:第1部 経済産業省ご担当者による制度解説/第2部「マイナスの貯金」のつくり方 〜活用事例〜
  • 参加費:無料
  • 対象:シャイン総研メールマガジン会員の方

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