令和8年度は、中小企業向けの補助金・助成金が拡充される見込みです。なかでも、賃上げや人材定着と結びつく国の支援策に注目が集まっています。本記事では、「どの制度が」「いつ」「どう準備すればよいのか」を、特定の立場に偏らず実務目線で整理します。焦って動くのではなく、年間の見通しを持って計画的に活用するための地図としてお役立てください。
令和8年度、中小企業向けの予算はどう動くか
中小企業庁の予算資料によれば、中小企業関係の予算は拡充の方向にあります。具体的には、当該年度の当初予算と前年度の補正予算を合算した、いわゆる「15か月予算」ベースで、令和7年度の6,114億円から令和8年度は9,253億円へ、3,139億円ほど(およそ1.5倍)増える見通しとされています。
ここで大切なのは、この「約1.5倍」があくまで「15か月予算ベース」の数字だという点です。当初予算と前年度補正予算を合わせた規模どうしの比較であり、「中小企業向け予算そのものが一律に1.5倍になる」という意味ではありません。数字だけが独り歩きしないよう、前提を押さえておきましょう。
拡充の重点は、賃上げ、省力化(生産性向上)、人材の確保・定着といったテーマに置かれる流れがみられます。人手不足と物価高が続くなか、賃上げの原資づくりや設備投資を後押しする制度が手厚くなる、というイメージです。
賃上げ・人材定着に使える主な補助金・助成金
ここでは、賃上げや人材定着とセットで検討しやすい代表的な制度を紹介します。いずれも金額や要件は年度や公募回によって変わるため、最新の公募要領・交付要綱・リーフレットで必ずご確認ください。
業務改善助成金(厚生労働省)
事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を50円以上引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資などを行った中小企業に、その費用の一部を助成する制度です。助成率は事業場内最低賃金の水準に応じて4/5または3/4です。引き上げ額のコースや対象人数によって助成の上限は変わり、最上位のケースで最大600万円とされています。ただし、この600万円は上位コースかつ人数などの条件を満たした場合の上限であり、どの企業でも受けられる金額ではない点に注意が必要です。
キャリアアップ助成金(厚生労働省)
有期雇用など非正規で働く従業員を正社員化した場合などに支給される制度です。正社員化では、中小企業で最大80万円が支給されるとされています。さらに令和8年度には、正社員登用の実績などを自社サイトや公的サイトで公表した事業所への「情報公表加算」(20万円)が新設されました。いずれも条件を満たした場合の「最大」の金額として捉えておくとよいでしょう。
働き方改革推進支援助成金(厚生労働省)
労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバルの導入といった、働き方改革の取り組みを支援する助成金です。助成率は3/4(常時使用する労働者が30人以下などの一定の場合は4/5)です。コースごとに支給の上限額や成果目標が定められており、金額は制度・成果目標によって異なります。活用を検討する際は、最新の交付要綱で対象経費と上限額を確認しましょう。
賃上げ促進税制(経済産業省・中小企業庁・国税庁)
給与などの支給額を前年度より増やした企業が、その増加額の一部を法人税から差し引ける税制です。現行制度では、中小企業向けは要件を積み上げることで最大45%の税額控除が受けられ、控除しきれなかった分は5年間繰り越せます。ただし、令和8年度の税制改正では、教育訓練費に関する上乗せ(10%)が廃止され、最大の控除率が35%へと変わる見込みとされています。適用の開始時期などの詳細は今後の情報で確定していくため、最新の内容を確認したうえで判断することをおすすめします。
中小企業省力化投資補助金(一般型)
人手不足の解消や生産性向上のための設備投資を支援する補助金です。補助の上限は従業員規模に応じて設定され、5人以下で750万円、規模が大きくなるにつれて段階的に上がり、101人以上で8,000万円とされています。補助率は中小企業で1/2、小規模事業者で2/3です。さらに、一定の大幅な賃上げを行う場合の特例に該当すると、補助率が2/3に引き上げられ、補助上限も上乗せされます。公募回ごとに条件が変わるため、申請時は最新の公募要領で要件を確認してください。
なお、賃上げや時短は、人件費の負担増という側面だけで捉えられがちですが、生産性向上と結びつく面もあります。内閣府の経済財政白書では、労働時間が約10%減ると時間当たりの労働生産性が高まるという分析も示されています。補助金・助成金は、こうした前向きな投資の初期負担を和らげる手段として位置づけられます。
補助金には「準備しやすい時期」がある — 年間スケジュールの考え方
補助金・助成金は、いつでも自由に申請できるとは限りません。多くの補助金は国の年度予算に基づいて運営されるため、年度が替わる春先に公募要領が更新・公表される制度が多く見られます。一方で、制度によっては夏や秋に公募が始まるものもあり、受付期間もそれぞれ異なります。
つまり、「使えそうな制度を見つけてから慌てて準備する」のではなく、「あらかじめ候補を把握し、公募が開いたらすぐ動ける状態にしておく」ことが有利に働きます。関心のある制度について前年度のスケジュールを調べ、おおよその時期を年間カレンダーに落とし込んでおくと、公募開始のタイミングを逃しにくくなります。
計画的に活用するための準備ステップ
補助金・助成金を計画的に活用するために、次のような順序で準備を進めると整理しやすくなります。
- 自社が使える制度を棚卸しする — 賃上げ、設備投資、正社員化、労働時間短縮など、自社が取り組む予定のテーマから逆算し、関連する制度をリストアップします。
- 就業規則・賃金規程を整えておく — 雇用関係の助成金では、就業規則や賃金規程の整備が要件になることが少なくありません。申請の直前ではなく、日ごろから最新の法令に沿った状態に保っておくことが、いざというときの近道になります。
- 公募前に必要書類の準備を進める — 事業計画や見積書など、公募開始後に短期間で求められる書類は、あらかじめ骨子を用意しておくと申請がスムーズです。
- 制度の更新を定期的に確認する — とりわけ雇用関係の助成金は、毎年のように内容が見直され、新設や廃止も行われます。前年に使えた制度が今年は条件が変わっている、ということも珍しくありません。年に一度は最新情報を確認する習慣をつけておくと、活用の機会を取りこぼしにくくなります。
制度は数が多く、要件も細かいため、自社だけで判断が難しい場合は、各省庁・事務局の公募要領を確認したうえで、必要に応じて商工会議所などの支援機関や専門家に相談することも選択肢の一つです。
まとめ
令和8年度は、中小企業向けの補助金・助成金が拡充される見込みで、賃上げや人材定着と結びつく制度に注目が集まっています。ただし、金額や要件は年度・公募回ごとに変わり、「最大◯万円」といった数字も、条件を満たした場合の上限です。目先の情報に振り回されるのではなく、自社に合う制度を見極め、年間の見通しを持って準備しておくことが、着実な活用につながります。まずは、関心のある制度の最新の公募要領・交付要綱を確認するところから始めてみてください。